February 23,1983
我々の世代で、スピルバーグの名を知らぬ者はいるまい。彼は常に僕たちを楽しませ、夢を与えてくれた。彼は1970年代から現在にかけても夢のある──あるいは、シリアスではあるがこれまで考えてもみなかったことについて深く考えさせられる──映画を創り続けているので、たとえあなたがどの世代に属しているとしても、きっと彼の映画の2本や3本は観たことがあるだろう。
僕が見た最初のスピルバーグ映画は何だったろうか? おそらくテレビで見た『JAWS/ジョーズ』(1975)が初めてだったと思う。これは面白いですよね。僕はこの映画のヴィデオを持っていて、今でも時々見ることがある。ジョン・ウィリアムスの音楽とともに恐怖がじわじわと盛り上がっていく演出が見事でした。この時スピルバーグは弱冠28歳! まさに天才ですね。そのあとやはりテレビで『未知との遭遇』(1977)を見た。宇宙人は本当にいるんじゃないかと、おさなごころ──というほどの年齢でもなかったはずだが(笑)──にそう思わせるロマンがあった。この映画がのちの『E.T.』に繋がっていくんじゃないかと思うのだけれど、「宇宙人友好説」路線の映画を撮っていたのはスピルバーグだけでしたよね。
ほぼ同じ頃、『激突!』(1972)も見ました。ちょっとトラックを追い抜いただけで、理不尽な恐怖に襲われることとなる平凡なサラリーマンを巧みに描いたあの映画。あんな単純なストーリーで2時間飽きさせないというのは、やはりスピルバーグの演出のうまさとしか言いようがないでしょう。トラックの運転手が最後まで顔を見せないのもいい。言及の順序が逆になってしまったけれど、緊張感を持続させたり少しずつ恐怖を盛り上げていくといった彼一流の演出のうまさは、後の『JAWS/ジョーズ』に引き継がれていくこととなる。
そして映画史上に輝く『E.T.』(1982)を、スピルバーグ作品としては初めて映画館で観ることになる。地球に取り残されてしまったE.T.と、地球人の子どもとの心の交流を描いたこの作品が、アメリカや日本はおろか、世界中で大ヒットしたことは誰でも知っているでしょう。非常に陳腐な表現しかできないのがもどかしいが、観終わった後に心がさわやかになる──というか、どこか暖かい気持ちになって、純粋だった子どもの頃の心を少しだけ取り戻したような気にさせてくれる──映画は、他には思いつかない。興行収入では、もはや『タイタニック』やその他数本の優れた映画に抜かれてしまったはずだが、こういう気持ちにさせてくれる種類の映画というのは、実に希少であると思う。
懸命に記憶を辿り、やっと1本だけ同じ種類の映画を思い出すことができた。その映画は、『ミリィ 少年は空を飛んだ』(1986)である。子どもの心を残している人なら『E.T.』と同じ種類の感動を味わうことが出来るはず。ヴィデオが出ているので、ぜひ見てみて下さい。
その後、ヴィデオで『レイダース/失われたアーク』(1981)を見る。「昔ながらの冒険活劇を作りたかった」とスピルバーグは語っているが、それが成功したのはシリーズ化されたことからも明らか。僕はこの作品のヴィデオも持っている。思えば、当時まだヴィデオは14800円が主流で、ブロック・バスターとかいって10500円で売られているのをありがたがっていた。『レイダース/失われたアーク』もブロック・バスター作品で、僕が生まれて初めて買った映画のソフトでもある。
その後スピルバーグの作品は、「エンターテイメント/ファンタジー系」と「シリアス/社会派系」の2方向に分かれていく。製作総指揮や原案のみの映画まで入れると膨大な数になるので割愛するが、「エンターテイメント/ファンタジー系」として『トワイライトゾーン/超次元の体験』(1983)──全4話の中の1話で、老人ホームの老人たちが一夜だけ子どもに戻ってしまうという話。子ども心のあるスピルバーグらしい作品──、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)──『レイダース/失われたアーク』の続編。ジェット・コースター的なテンポの早さは前作よりもはるかに上だが、僕は個人的には前作の方が好き──、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989)、『オールウェイズ』(1989)──前半はよかったが後半がどうも……──へと続いていく。90年代に入っても、ピーターパン映画『フック』(1991)、世界中で大ヒットした『ジュラシック・パーク』(1993)──インドではヒンディー語吹き替え版が公開されたと、現地の知り合いが教えてくれた。ヒンディー語を話すローラ・ダーンの姿をぜひ見てみたかったものだ──、その続編『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク2』とその勢いはとどまることを知らない。
一方「シリアス/社会派系」の作品は、『カラーパープル』(1985)──映画館で見たが、人間として未熟だったせいかよく分からなかった──に始まり、『太陽の帝国』(1987)もあるが、これは未見。90年代は、オスカーを手にした2本の傑作が記憶に新しい。『シンドラーのリスト』(1993)──テレビで見たが、なかなか良かった──と『プライベート・ライアン』(1998)。後者では、本当の戦争というものがどういったものであるか──もちろん、実際に戦地に赴いたことのない者が「本当の戦争」などと軽々しく口に出せないことは承知しているつもりだが、それでもあえて言わせて下さい──をまざまざと見せつけてくれた。この映画の圧倒的な迫力の前では、オリヴァー・ストーンの『プラトーン』がかすんでしまうほどだ。過去最高の戦争映画と言えるのではないだろうか?
今年のアカデミー賞授賞式(もちろんテレビ)でちらっと彼の姿を見かけたが、まだまだ元気そうだった。「エンターテイメント/ファンタジー系」、「シリアス/社会派系」いずれの作品を撮るにせよ、製作総指揮などにまわらずに、これからも監督としてガンガン良い映画を創っていって欲しいものだ。